前回、ノド鳴りについて解説しましたが好評だったので今回は「屈腱炎」について書いていこうと思います。
出資馬の近況で最も見たくない文字であり、競走馬にとっては致命的とも言える症状ですが意外と漠然とした知識しかない方も多いのではないでしょうか?
今回もできるだけ専門的な話はしませんし、完全に判明してるわけではないので現時点での一つの見解として紹介していきます。
まず、屈腱炎というくらいですから屈腱という部分に炎症があるんだろうなと漢字からも想像がつきますよね。
屈腱とは人間で言えばアキレス腱みたいなものですが、屈腱炎はアキレス腱断裂とは違います。
断裂まではしておらず、一部断裂かもしくは腫れて炎症しているだけです。
走るのにとても重要な部分なので屈腱炎になると走るのは難しくなりますが命に関わるものではありません。
では、なぜ屈腱炎になるのでしょうか?
これが1番気になりますよね。
人間でも馬でも運動をすると体温が上がります。
なので、発汗して体温を下げようとするわけです。
馬も調教やレースで走れば当然体温は高くなっていきます。
その体温上昇によって、屈腱の部分のたんぱく質が変性してしまうそうです。
通常は体温が下がり時間が経つと、動物の治癒の力でその変性したものも回復していきます。
しかし、一部完全に戻らなかったりすることがあるのです。
そうやって、調教のたび、レースのたびに変性したたんぱく質の繊維が積み重なっていきます。
そして、あるタイミングで屈腱炎として発症するのです。
これが今1番有力とされている説のようです。
つまり、一度の大きな衝撃でいきなりなるわけではなく、調教やレースの積み重ねが原因なのです。
なので、高速馬場で脚に大きな負荷がかかったなどというのは無関係なのです。
高速馬場になる前の日本でも、重い馬場の欧州でも、ダートのレースでも関係なく屈腱炎になるのです。
まとめると
調教やレースで全力で走ることで体温が上がる
↓
屈腱のタンパク質が変性する
例えば100%が完全な状態だとすると10%変性してしまい90%になる
↓
体温が下がり回復する
90%から98%まで回復するも2%が変性したまま
↓
仮にこれを20回繰り返して調教やレースをすると40%が変性したままということになる
↓
あるタイミングで屈腱炎として発症する
これは当然ながら個々の差が大きく、変性する%が少ない馬もいれば毎回ちゃんと100%まで回復する馬もいるでしょう。
屈腱炎になるタイミングのハードルが高い馬もいれば低い馬もいるでしょう。
なので、同じように調教やレースをしても屈腱炎になる馬もいればならない馬もいるのです。
どちらにしても、何か大きな1度の衝撃というよりは蓄積なんだということが重要だと思います。
では、対策はあるのでしょうか?
脚の体温が関係しているということは最も効果的なのは冷やすことです。
今も調教やレースの後に足元に水をかけて冷やしている光景って良く見かけますよね。
これは効果があるようです。
あとは、蓄積ということを考えるとレースはしょうがないにしても強い調教の回数をしすぎないというもの重要かもしれません。
藤沢先生なんか毎回緩い調教ばかりですが、屈腱炎の防止ということも考えているのかもしれませんね。
脚のバンテージなんかも温度を下げる妨げになるのでしないほうがいいそうですが、別の怪我の防止にはなりますので難しいところですよね。
また、蓄積ということを考えると若い馬より古馬のほうがなりそうですよね。
ただ、これも個体差なので2歳でも調教はかなり回数をしていますので発症します。
新馬デビューして1戦後に屈腱炎なんて結構見かけますよね。
また、ある一定以上の体温になる運動が関係しているので、それ以上であれば強弱は関係ありません。
なので、レース後でもなるし、調教後でもなります。
激しいレース後になるイメージはありますが、一口馬主をしていると普通に調教後になるのも経験していると思います。
最後に治るのかどうかですが、基本的に安静にしていれば動物には治癒能力があるので回復していきます。
それを促進するために、今は再生細胞を注入したりもしたりすることもあるそうです。
それでも、変性したタンパク質が見かけ上は元に戻ったように見えて、運動をするとまた再発したりするのがやっかいなところです。
再発のリスクはかなり高いです。
こればかりは、医学の発展に期待するしかないですね。
今回、屈腱炎について勉強し少し印象が変わりました。
一回の強い負荷ではなく、調教やレースの蓄積なんだということがわかるのは大きいです。
あんな高速馬場のレースに使ったせいだとか調教で負荷をかけすぎたせいだとかいう非難は的外れだとわかります。
一口馬主を続けていくといつか見ることになる屈腱炎という文字。
本当に絶望的な気持ちになります。
先日もシルクの馬が2頭も屈腱炎になりましたし、広尾のデビューしたばかりの2歳馬も2頭も屈腱炎になりました。
まずは正しい知識をつけて的外れな批判はしないようにしたいものです。
そして、あとは治ることを見守るしかできません。
競走馬にとって「不治の病」と言われている屈腱炎がいつか治る病に変わってくれることを願っています。
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